2011年9月21日水曜日

小さめのドレス

悲しいことがありました。
いや、楽しいことがありました。
いや、人の優しさを知りました。

これは自慢ではありません。
断じて違うんです。
信じて下さい。

私、胸が大きくなりました。

幾種類も飲んでいるサプリメントのせいなのか、毎日欠かさずに行っているリンパマッサージのせいなのか、それとも果てしなく続く私の不埒な妄想のせいなのかはわかりません。

あ、太ったのではありません。
自信はないですけど、太ったのではありません。
とんかつ定食ご飯大盛りもちろんおかわり、とか普通にやってますけど、たぶん太ってないと思います。

先日の六本木のSTB139でのライブの時のこと。

リハーサルを終え、メンバーと一緒に楽屋で寛いでいました。

本番1時間前でしたが、出演者たちはぼちぼちと衣装に着替え始めていました。どれ、私もドレスに着替えようかな。なんと、今日は奮発してツーポーズ!最初は華やかにオレンジ色でいこうかな。

気楽にオレンジ色のドレスを手に取り、私は個室へ入り込んだ。

このドレス、久しぶりなんだよなー。
でも、最近痩せたからスッスッスーッと着れちゃうもんね。

などと思いつつ、ファスナーを上げる。…フ!!…あれ?…フ!!…あれ?…ホッ!!

フゴーーーーッ!!!

変な声を出しながら、私はファスナーという小賢しくも困難な敵に挑んでいた。
空調の風のない個室で私は俄かに汗だくになり始めた。

いけない。このままでは生地が張り付いて余計に着づらくなる。

私は個室を出て、みんなの待つ楽屋へ戻った。

STBの楽屋は何部屋もあって、だいたい女性演奏者と歌手の楽屋は毎回同じ。今回はクラリネットに女性のエキストラが入ったので、彼女も合わせて4人の女性が同じ楽屋を共有していた。

すみませーん、ファスナー上げてくださいーーー!!!

私が行くと、よし来たガッテン!と言わんばかりにフルートのTちゃんがファスナーに挑みかかる。私も必死に肺の空気を抜きつつ、ファスナーを上げようと頑張る。

しかし、スパンコールやビーズでなかなかつかみどころのない衣装。こっちを伸ばせばあっちが立たずでなかなかファスナーは上がらない。

Tちゃん「もう一人の手助けがいる!お願いします!」

Tちゃんがクラリネットの女の子に声をかける。「はい!」と彼女は元気よく返事をし、一緒にファスナー戦に参加。わいわいやっていると、隣の楽屋からドラムのMさんが勢い良く駆け寄ってきて、

Mさん「何なに何なに!?俺やる!俺やる!俺にやらせて!!」

となぜか喜んで参戦。しかし、この難しい戦いに参加したことにすぐさま後悔の声を出す。

Mさん「痛い…。指が…痛い…何これ…上がらない」

Tちゃん「待って、私がここを押さえるから」

クラ「…。」(必死)

全員「せーの!!」

私「…ハフ!!」

みんなで一丸となって戦っていると言うのに、一向に歯の立たない戦い。そのうち、指揮者のHさんが世にも珍しい光景と言わんばかりにカメラのシャッターを切り始めた。小さな楽屋はてんやわんやの大騒ぎだ。

くそぅ、もう諦めてもう一つのほうのドレスにするー!!

Tちゃん「いや…これは絶対に上がる!待って、もう少し…」

私「…クァッ!!」

やはり、歯が立たないのだ。
もうダメだ。みんなの心が折れかけた時。

隣の楽屋からメンバー一番の巨体 - "デラックス"という異名を持つ男 - ベースのDちゃんがさっそうと入って来るなり、私の胴体を両手でグッと押さえこんだ。

私「ぐは!」

その時、全員がファスナーに手を伸ばした。

「今だ!」

みんなの心が一つになり、なんと、ファスナーはいとも簡単に上へ上がってくれたのだった。

Dさん「な!?」

と、全員にどや顔を見せ、片手に煙草の箱を握りしめながら、入ってきた時と同じようにさっそうと部屋を出て行った。

大きな大きなDちゃんの背中を見て、ああ…あの人も一人で洋服を着る苦労を重ねてきたんだな、としみじみ思う。みんな、ありがとう。おかげさまで、素敵なドレスを"装着"することができました。

Tちゃん「おぬきさん…入りましたけど…ブレス、出来ますか…?」

私「…します。超人ハルクみたいにドレスが引き千切れても。」

と覚悟の顔の私。

本番直前、ステージに上がっていく共演者の人たちが口々に「Dスケにアバラ押さえられたんだって?」「Dスケがアバラ押さえたんだって?」と声をかけながら私を通り過ぎて行った。

くそぅ、絶対痩せてやるーーー!!!ガリガリ宣言、再び発令なのだ!!!

あ、太ったんじゃないんですよ。胸が大きくなったんです。
あ、自慢じゃないですよ?本当です。本当に胸がお…以下自粛。

がんがります。

2011年9月6日火曜日

恥ずかしさの切り抜け方。

人前で小さな失敗をしてしまった時、誰もが少しは恥ずかしいと感じるのだろう。

夏祭りで屋台の焼きそばを食べて、思いっきり笑顔で彼を見上げたとき「歯に青海苔がついているよ」と指摘された時の恥ずかしさ。あるいは、左右違う靴下を履いて外出してしまった時。あるいは大事なお客様を「お父さん」と呼んでしまったこと。あるいは、強風にあおられ部分カツラが少し浮いてしまったこと。よく、お年寄りがスラックスのチャックを開けっぱなしにしているが、本人はどうでもいいのかもしれないが、それは私が恥ずかしい。

挙げればキリがない。

ずいぶん前の話だ。

私は上司と一緒にビルの廊下を歩いていた。
会議室付近ということもあって、とても静かな廊下だった。

何かの理由で私が上司の前に出た時だった。

プッ!

引き締めていたにも関わらず、私のお尻から出てしまったガス。

引き留めようと思っていたガスがついにもう外へ出ようと決心をし、私を裏切ろうとする瞬間、私はガスが排出する音と共に、前へ少しジャンプした。



上司   「お前、今、おならで飛んだな」



上司が小さくつぶやいた。

私     「やってみればできるものですね」

私は不敵な笑いで上司を振り返った。

それ以来、私はこの手の失敗をジャンプすることで切り抜けている。
ものすごくセンスのある切り抜け方だと自負しているが、上司のようにこの洒落がわかる人はそれほど多くない。

っていうか、人の前でおならは良くない。

おわり。